第185章

酒井初音は手術台に身を伏せ、ほんの一瞬たりとも気を抜かなかった。両手はぶれず、しかも軽い。鍼とメスを、呼吸するみたいに切り替えていく。

人体の経絡は、絡み合う迷路だ。

手術台の前に立つ初音の表情は沈み、一本一本の流れを丹念に追っていく。ちぎれかけた経絡を拾い上げ、顕微鏡下で、確実に縫い合わせる。

途方もない作業。

医師の神経を、心力を、限界まで差し出さなければ成立しない。ほんのわずかな狂いも許されない。

時間だけが、ぽとり、ぽとりと落ちていった。

サウジ側に控える山口家の医療の泰斗たちは、当初こそ固唾をのんで初音の手元を見つめていた。

若すぎる。意地と勝負欲で、カルロス王子の命...

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